目

異所って何だ?第三の脂肪って何だ?

研究開発やってみた

メタップ®の筋肉量増加作用の検討①(メカニズム編)

背景

ロート製薬グループでは、高齢化社会におけるフレイル問題に、食品素材のイノベーションからアプローチを試みています。グループが保有する独自素材のメタップ®(グロビンペプチド)は食後の中性脂肪対策の素材。肥満への効果を調べるため、マウスを高脂肪食で飼育する肥満試験を行ったところ、メタップ®は脂肪の代謝を高めて内臓脂肪を減少させるだけでなく、筋肉づくりをサポートする可能性が見えてきました。本レポートにおいては少し詳細な内容へと踏み込んで、メタップ®がどのようなメカニズムで筋肉づくりをサポートするか、研究結果を元にご紹介します。

報告

食事性肥満マウスモデルでの検討事例

ICR系統の雄マウスを以下の3群に分け、2週間飼育しました。飼育後、骨格筋組織を回収し、RNAを抽出しました。その後、逆転写反応によりcDNAを合成し、リアルタイムPCRを用いて4種類の遺伝子(Ucp2、Pax3、Mstn、MyoG)の発現量を測定しました。

<試験群>
・高脂肪食+メタップ®群(HFD+METAP®
・高脂肪食群(HFD)
・普通食群(ND)

メタップ®を摂取した群では、筋肉分化促進遺伝子は(Ucp2、Pax3)増加または増加傾向でした。一方で筋肉分化抑制遺伝子(Mstn、MyoG)は発現量の増加が抑制、もしくは抑制傾向でした。

マウスに、脂肪の多い餌とともにメタップ®を摂取させたところ、筋肉での遺伝子発現に変化が見られ、筋肉の分化を促進する方向に遺伝子発現が変化していました。この試験ではメタップ®を食べたマウスで内臓脂肪量の増加抑制が認められていたことから、メタップ®は、肥満を抑えると同時に、筋肉を作ることをサポートする可能が示されました。

遺伝子レベルの実験で示された、メタップ®の筋肉分化促進作用がどういったことかを確かめるため、マウス由来の筋芽細胞(C2C12)という、筋肉の元になる細胞を用いて試験を行いました。

筋芽細胞から骨格筋細胞への分化に対する作用

C2C12マウス筋芽細胞を培養し、分化用培地に切り替えて骨格筋(筋肉)細胞への分化を誘導しました。分化誘導と同時に、以下に示した処理を行いました。分化開始から6日後に細胞を固定し、筋肉に特異的に存在するタンパク質(Myosin Heavy Chain)を蛍光免疫染色しました。顕微鏡画像を撮影し、ImageJソフトウェアを用いて蛍光強度を定量することで、分化の程度を評価しました。

<処理区>
・メタップ®:1、10、100 μg/mL
・各種ペプチド:1 μg/mL

結果、メタップ®10 μg/mLまたは100 μg/mLの処理で、骨格筋への分化が有意に促進しました。また、メタップ®に含まれるFESペプチド単独を1 μg/mLで処理した場合でも同様に分化を促進しました。

メタップ®または含まれるペプチドによる骨格筋分化への影響
Control:陰性対照区、METAP®:メタップ®処理区、pep1-6:各種ペプチド処理区
*p<0.05, **p<0.01 (vs. Control)

実験結果より、メタップ®および含まれるペプチド(配列:FES)には、筋芽細胞から骨格筋細胞への分化を強く促進する作用があることが示されました。この実験は、筋肉の元となる細胞から筋肉の繊維へと変化するフェーズでの作用を調べたものですが、筋肉の元の細胞自体の増殖フェーズにおける作用についても調べるため、別の実験を行いました。

筋芽細胞の増殖促進作用

C2C12マウス筋芽細胞を96ウェルプレートに播種(約4,000細胞/ウェル)し、通常培地で24時間培養しました。その後、培地を試験用培地に切り替え、以下の処理を行いました。処理の後、2日間培養し、CellTiter-Glo発光アッセイにより細胞増殖率を測定しました。

<処理区>
メタップ®:5、10、20、100 μg/mL
コントロール (Control):無添加(陰性対照)

結果、メタップ®の20 μg/mLおよび100 μg/mL処置により、コントロールと比較して筋芽細胞の有意な増殖促進作用が見られました。

メタップ®による筋芽細胞の増殖への影響
▲:陰性対照区 (Control)、●:メタップ®処理区
*p<0.05, **p<0.01 (vs. Control)

実験結果から、メタップ®には筋肉の元になる細胞である、筋芽細胞の増殖作用があることが示唆されました。

最後に

メタップ®を食事性の肥満マウスに食べさせ、筋肉での遺伝子発現量を調べたところ、メタップ®は内臓脂肪を減らすだけでなく、筋肉づくりをサポートする可能性が見えてきました。メタップ®が筋肉でどういった作用を示すかを調べるため、培養細胞を使った試験を行ったところ、筋肉の元の細胞(筋芽細胞)の筋肉への分化を促進するだけでなく、筋芽細胞の増殖も促進することが分かりました。以上のようにメタップ®は、筋肉の元になる細胞を増やし、さらに筋肉へと変化するところまでをサポートすることが明らかとなりました。
ここまでの研究で示されたことは、メタップ®が細胞レベルで、新たに筋肉を作ることを促す可能性であり、実際に体づくりや、運動パフォーマンスに役立つかについては、別の検討を行うことで明らかにする必要があります。

下記参考文献をもとに作図

  • 特開2023-48160 (2023.4.6)